悪気はなかったの、なんて、言わない。 あなたとわたしの経歴はたいしたものではない。わたしは人並みに紆余曲折した人生を送ってきた普通の女で、あなたも人並みに紆余曲折した人生を送ってきた普通の男だった。あなたとわたしは人並みに恋して、付き合って、別れた。わたしが原因で。 わたしはあなたが恐ろしかった。原因は、あんまり言いたくないけど。よくある話、ほんとうに。わたしはどこにでもいる普通のひと。ほんの少しだけ普通ではない体験にあってしまっただけで、ほかの人だって、わたしとまったく同じではないこそすれ、同じくらい変わった出来事にあったことがあるはず。普通なだけの人生なんて、ないもの。 例えば誰かの所為で人間不信や人間恐怖症になったとして、その所為で嫌われるのってわたしの所為なのかしら。ちょっと不公平すぎやしないかしら。 あなたは知らないの。わたしは男の人と話すとき、異様なまでに身構えて、深呼吸して準備をすること。三秒の会話のあとは頭に血が昇って、動悸がはげしくなる。恋じゃないのよ、誰にでもだもの。理解はしている、それは恐怖。 男という生き物は、みんなわたしを嫌っているのよ。あの生き物は、自分のことは棚に上げてそれなりに面食いなの。きっと女も同じだけどね。疎ましいわよね、いらいらしちゃう。だからわたし、ひとを見た目で判断するひとって嫌いなの。だって、そんなひと、わたしのことなんて嫌いに決まっているわ。わたし、そんじょそこらの人じゃないのよ。ちゃんと自分のことを理解しているのだもの。身の程も、わかっているつもり。 だけど、男がみんなわたしを嫌っているだなんて考え傲慢なのよね。だって、人々にとってわたしは、嫌う価値もないほど取るに足らない存在なんだもの。だけど、嫌われていると思って用心しておくに越したことはないわ。だって、関わる価値もないと思っているのなら何故彼らは遠巻きにわたしをからかうのかしら。すれ違い様に浴びせた罵声に気づいていないとでも思っているのかしら。気づかせようとしてやっているのなら、そんなことで傷つくとでも思っているのかしら。思惑通りずたずたよ、こんな弱いわたしはきらい。 あなたはここ数年間で、初めてわたしに普通に話し掛けてきた男子だった。自信があるの。本当に。あなたが初めてよ、五年以上のなかで。罰ゲームとか悪戯だったら、ぜったいわかるもの、わたし。 なんてことない話をした。あなたがわたしと話したあとに男子の輪に戻るとからかわれていたことは、知ってる。その度にあなたが「やめろよ」と言っていたことも。それ、どっちだったのかしら。彼らがわたしを貶めていることに対しての怒りか、わたしとそんな関係を冷やかされることに対しての憤りか。前者だと思っていてもいいかしら。だって、あなたはそれから数ヶ月でわたしに告白してきたのだから。 すっごくベタよね。下駄箱に手紙が入ってたの。しかも、無記名。びっくりしちゃった。ああ、しめられるかしら、って。それともカツアゲかしら、とか。一番妥当に考えて、罰ゲームか嫌がらせの告白なのよね。でも、ちゃんと手紙の通り放課後に非常階段へ行ったわ。そういうの、行くことにしているの。嘘の告白をされたあとに、「ああそう。罰ゲーム、お疲れ様」って言う、あの優越感ったらないわ。あのとき、わたしは本当に彼らを虫けらでも見るような目をしているのでしょうね。 それで、行ったら、あなたがいるのよ。わたし、びくびくしたわ。きっとあなたがわたしに話し掛けてきたこと自体が罰ゲームの一環で、わたしがあなたと普通に話せるのは今日で終わりなんだ、そう思ったら涙がでそうだった。嘘でも楽しかった。嘘とは思えないくらい、あなたはわたしに良くしてくれたの。ねえ。 あなたはわたしに告白してきた。「付き合ってください」じゃなくて、「好きです」って言った。「なんで?」、って、反射的にわたしは訊いてた。だって、あなたは上位に入りこそしなくても、顔も勉強も運動も、中の上ほどはだったのだもの。一方、わたしは全部下の下。強いて言うなら、たいして友達もいないし暇だから、勉強はちゃんとしているし、上の下程度にはできる。でも、このご時世勉強なんてできたところで、何がいいのかしらね。わたし、この世って結局顔だと思っているの。 わたしに訊かれて、あなた随分戸惑っていたわね。なんでって言われても……なんて、まごまごしてた。わたし、しまったと思ったの。今までの人たちはみんな即効で「お疲れさま」って言われていたから、きっと彼もそう言われると思っていたのよ。だから、予想外のことを訊かれて戸惑っているんだわ。あなた、さっさと「お疲れ」って言って貰いたかったのね、そこまで思考が行きついて、いよいよ悲しくなってわたしは涙が零れたわ。慌てて拭って泣き止もうとした、そりゃあ、泣き顔がきれいな人間なんて、二次元の人と余程の女優だけよ。本当の不細工は、泣き顔なんてそれはもう惨めそのものだし、笑顔だってきもちわるいものよ。 だけど涙って一度溢れると止まらないもので、涙はぼろぼろ出てきたの。仕方ないから、手と腕で顔を隠したわ。その前に一瞬だけあなたの顔を見たけど、本当に慌ててどうしようって途方に暮れたような顔だった。わたし、あなたがざまあ見ろって笑ってるんじゃないかと思ったから、酷く安心した。それから、あなたはこんなとき笑うような男子たちに無理やりこんなことをさせられてるだけの、本当は優しい人なのね、って、そう思ったの。だから、わたしは手で顔を隠しながら、やっと掠れて震えた声で「おつかれさま」だけ言って、その場を後にしたわ。本当はこんな乙女みたいなポーズも取りたくないのだけれど。きもちわるいから。 次の日から、あなたは話し掛けてこなくなった。当たり前ね。わたしは元の通り一人で、休み時間はたっぷり予習と読書のためだけに使った。なんだか異様に休み時間が長くなった気もするのだけれど、元々こうだったのだもの。慣れれば平気よね。 だけどある日、わたしが本を読んでたら変に視線を感じたから、見てみたの。そしたら、あなたがこっちを見ていたわ。目が合うと同時にそらしてしまったけど。そのときわたしが読んでいた本は、あなたが初めてわたしに話し掛けてきたときに読んでいた本の新巻だった。それよりわたしは、あなたがわたしから目を逸らすときの表情が網膜に焼き付いて離れなかったの。あなたは本当にわたしのスタンダードを打ち破ってくれる。それは騙してばつが悪いとか言う顔なんかじゃなかった。他の男がそんな顔をしていたらわたしはダサいと思っただろうけれど、あなただったら違った。こう言っては失礼だろうけど、とても可愛かった。そのときはそんなことを思う余裕もなかったけれど。でも、あなたのこの表情と、わたしは最後まで付き合うことになったのよね。わたし、あなたにあんな表情ばかりさせていたわ。 悲しそうだった。 勇気を振り絞って、わたしはあなたに声をかけた。たった数週間ぶりなのに、もう初めてと同じ具合になっちゃって、わたしは手に汗を握っていたわ。今までだって、いつも話しかけてきたのはあなただったものね。 あれから、わたしはとても考えた。そして、もしあなたが本気で私に告白してきたのなら、わたしはとても酷いことを言ってしまったことになる。「お疲れさま」だなんて、あなたは勇気を振り絞ってわたしに好きと言ってくれたのに。だから、そのことについてだけでも、ちゃんと訊いて、謝りたかったのよ。 あなたはわたしのお疲れさまと言ったことの経緯を聞いて、またあの表情をしたわ。そして、わたしに謝ったの。どうして謝るのって訊いたら、「おれが、あの人たちがきみを傷つけるようなことをしたりさせたり、言ったりしているのを、止められれば、きみは人の告白を罰ゲームとしか受け取れないような人にはならずに済んでいたのに」って。わたし、びっくりして、また、やっぱりこの人は優しいひとなんだな、って、思った。ただちょっとだけ、勇気が少ないだけなの。 わたしは気にしなくていいのって言って、そのまま立ち去ろうとしたんだけど、そしたら呼び止められたわ。告白の返事を聞かせてくれって。きみへの嫌がらせも止めさせられないような臆病者、無理だってことはわかってるけど、せめてわたしの口から断りの返事でも聞きたい、って。そういうとこ、変に勇気があるわよね。わたしだったら、もう聞かないもの。わたし、とりあえず返事は言わずにわたしと付き合うことのデメリットだけをつらつらとあげたわ。面白くないとか、一緒にいたらあなたまで悪く言われるとか、不細工だとか、本当に色々よ。あなたはそれを、ひとつひとつ丁寧に否定していったわ。今まで話していて楽しかったよ、とか、止めることができないなら、寧ろそうなってくれたらうれしいとか、可愛いよとか。わたし、また、涙が溢れてきて止まらなかった。自分の嫌なところしかわからないはずなのに、もう悪いところが出てこないの。涙しか出てこないの。どうしてなのかしら。 わたしの嫌いなところ、全部あなたに因ってすてきなところとされてしまったわ。信じられない、なんて思いはぐるぐると巡っていたけど、あなたといればいつか信じられるような気がしたの。 あなたはもう一度、今度は「おれと付き合ってください」と言ったわ。わたしは嗚咽の止まらない無様な顔で、それでも喜んで承諾した。涙が溢れて零れて、止まらなかった。それが昼休みで、五時間目は、二人並んで、特に話もせずにそのまま屋上でぼーっと座っていたわ。六時間目、わたしはあなたがからかわれるといけないと思って、あなたは保健室に残って貰って一人で教室に戻ったわ。未だに自分の状況がよく把握できてなかった。 普通のカップルって、買い物とか映画とか動物園とか、デートってたくさんするのかしら。でも、わたしたちは高校生でそんなにお金もなかったし、幸い自転車で十五分もあれば行ける距離だったから、大概わたしの家で会ってた。丁度親も共働きでほとんど家にはいなかったし。 なにをしていたかなんて訊かれても、特に何もしていなかったとしか言えない。あなたもなかなか奥手で、わたしもそうだったから触れることすらなかった。互いの好きな本や漫画や音楽の話をしてそれらの貸し借りをしたり、それぞれ読んでいたり、それぞれ昼寝をしたり、テスト前なんかは勉強をしたり、チェスや将棋をしたり、テレビゲームなんかもしたわ。同じようなことばかりしていたようにも思うけれど、不思議と退屈なんてまったくしなかった。飽きなかったの。 そんな関係が半年くらい続いた。あなたも普通の高校生男子なのに、そんな長い間彼女に手も出せなくて、ほんとうに我慢していたと思うの。あるとき、数学の問題をあなたに説明してもらっていたら、ふとした弾みで手と手が触れた。そのくらいでなにって思われるかもしれないけど、本当に、肌同士が触れたことはなかったのよ。握手だって、今までしたことなんかなかった。服越しならあっても。わたし、そのまま固まったわ。ちらりとあなたを窺うと、真っ赤な顔をしていたわね。そして、思わずわたしも赤くなっていることに気づいて俯いたの。小さなちゃぶ台越しにあなたの腕が伸びてくるのが見えた。その手が多少滑りながら、わたしの肩を抑えた。キスするつもりだって、わたしでもすぐにわかったわ。あなたは顔を近づけようとした。 でも、だめだった。あなたの体温が布越しに肌に伝わってきた途端、わたしは泣き出した。嗚咽も上げずに、ただ涙が垂れ落ちた。わたしは俯いたまま。それは恐怖だ。おそろしくてたまらない。 もしわたしが触れられるのは平気で、キスやそれ以上がだめなのなら、泣くわたしをあなたは抱きしめて宥められたのでしょうけど、あなたはそれすらできなかった。あなたは自分を責めたでしょうね、幾度となく。それが、とても、心苦しい。ごめんなさい。 わたしはあなたに何をしてあげられたのかしら。あなたはわたしに話しかけてくれた、一緒にいてくれた、恋してくれた、勉強を教えてくれた、新しい本を教えてくれた、新しい考えを教えてくれた。なのに、わたしと言ったら、なにも。そう思ったら、涙は本当に止まらなかった。わたしったら、あなたをこうして困らせたり、悲しませてばかり。なんてひどいひとなのだろう。だけど、ほんとうは欲を言ってしまうと、わたし。あのとき、無理やりでもあなたに抱きしめて欲しかった。 それからまたわたしたちは少し疎遠になった。会う頻度なんかは変わっていなかったけれど、なにか余所余所しいの。二人ならわかる。たくさん貰っておきながら、あなたに完全に心を許し身体を委ねることすらできないわたしにわたしは腹を立てていたの。 もう終わりかもしれない、って考えて、毎晩ベッドでひとりで泣いてた。なによりあなたと離れたくはなかったし、わたしはもう前のようにひとりでは生きていけないと、ちゃんとわかっていたのよ。それに、こんなこと言ったらあなたは軽蔑するかもしれないけれど、わたしだってあなたと繋がりたかったのよ。休日、ずっと裸でベッドで抱き合っていられたらどんなに幸せだろうって。だから、考えたわ。あなたに触れられても大丈夫な方法。その結果が、これよ。笑ってくれて構わないわ。 その人と出会ったきっかけは、なんてことない。普通の出会い系サイトよ。今、流行っているでしょう。お金を貰ったのは、ついで。くれるって言われたから、断る理由もないじゃない。こんなわたしにお金を払ってまでして抱いてくれるだなんて、余程よね。金持ちなのかしら。誰でもいいの、とりあえず、わたしとして欲しかった。そうすれば、きっとわたしはあなたとだってできるでしょう。ばれるかも、なんて考えなかったわ。どうしてかしら。不思議よね、すぐにわかるのに。 それで、あなたが会えないと言っていた休日に、その人と会ったのよ。したわ、ちゃんと。その人がわたしをどう思ったのかはしらないけれど、強要はせずにゆっくりとしてくれたし、ちゃんとお金もくれた。泣いても無視して進めてくださいと最初に釘を刺しておいたので、泣いたけれどちゃんと最後までできた。だけどそれは恋愛小説のような甘美なものではなかった。 これであなたともできる、って、わたし、内心とても喜んでいたの。でも、そんなものすぐ吹き飛んだわ。思えば、ホテルを出たらすぐに別れればよかったのよね。けど、お金を貰っている側な手前、そう偉そうにも言えなかった。だから、成り行きで駅まで一緒に歩いて行ってしまって、夕方だった。あなた、一応部活入ってたのね。その日は部活だったのでしょう、だから、あの改札から出てきたのよね。わたしたちは、目が合った。あなたはわたしを見ると、笑顔を浮かべた。迎えにきたとでも思ったのよね。わたしは凍りついた。何も言わないか、ちゃんと嘘を取り繕えば、ばれるわけもないのに。あなたはわたしの隣りの人に気づいた。わたしは凍りついていた。あなたは怪訝な顔をする。そして、沈黙の末きっと答えにたどり着いたのでしょう。まさか、と。あなたの顔が歪む。またよ、あの表情。悲しそうだった。 一緒にいたその人なんて放ってわたしは逃げた。不思議な話なのだけど、出会い系サイトでの関係は相手の希望であれば相手に恋人がいても伴侶がいても関係ないの。だれもなにも咎めないのよ。そういう世界なのかしら。ごみ捨てに行くときのサンダルみたいなパンプスがかちかち言って、スカートの裾はふわふわばさばさと揺れた。転びかねない勢いでわたしは走った。でも、残念ながらわたしは足が遅いの。あなたも荷物を放っぽり出してわたしを追っていた。運動靴でそれなりの運動神経も持つあなたとは見る間に距離が縮んで、すぐに手首を捕まえられた。そして、気が付いたらしくすぐに離す。少々の沈黙。 「ねえ。あれ、だれ」 もうだめだと思った。うまく説明できない。 説明できない。わたしは汚れてしまった。あなたとする前に、あんなおじさんと、お金を貰ってしてしまった。 「あれ、だれ。どういう関係なんだよ」 わたしは黙っている。あなたの視線が突き刺さった。 「おじさんだろ? 親戚の。なあ、そう言ってくれよ」 懇願するようにあなたが言う。わたしは俯いて黙っている。足ががくがくと震えているのが、自分でも嫌になるくらいわかったわ。わたし、あなたといると泣いてばかりね。今まで我慢していた分を、必死で取り戻そうとしているのかもしれない。ごめんなさい、ごめんなさい、泣きながらわたしは繰り返した。 わたしは嘘を吐けば良かったのかしら。でも、できなかった。嘘を吐けばよかったのかもしれない。きっとあなたはわたしがそう言えば、黙ってそういうことにしてくれたかもしれないもの。でも、そんなの卑怯よね。 あなたは諦めたように溜息を吐く。 「したの?」 直球の質問に、わたしの肩はびくりと揺れる。あなたはそれを肯定と取ったのでしょう。あなたの眼が、ぐらりと揺れた。あなたは踵を返して道の壁際に寄ると、壁に項垂れたわ。休日の夕方の駅の構内だもの、たくさんの好奇の目にわたしたちは晒される。あなたは項垂れて、ちくしょう、と呟いていた。 「あんなオヤジはいいのに、おれは駄目なのかよ」 ごめんなさい、ごめんなさい、違うんです、ごめんなさい、 わたし、あのとき何も言わなかったけれど、あなた、泣いていたのね。 だから、どうか誤解だけはしないで欲しいわ。行動が間違ったとは言え、わたしはあなたを間違いなく愛しているということ。それだけはわかっていて。あれから毎日、わたしはあなたにキスされ、抱かれることを考えている。勿論、そんなこと未来永劫ないって、知っているわ。それでも、いつか触れた指先や、布越しの体温、最後に掴まれた手首に残った指の感触なんかを思い出して、わたしはひとり身悶える。 あなたはわたしのことをクラスで、不細工のくせに援助交際で浮気をした、調子に乗った女と話すかもしれない。構わないわ、結局あなたにそう取られる行動を取ったのはわたしだし、今更これ以上クラスや学校の人に嫌われたとて、あなたがいなければわたしの学校生活なんてもう勉強をすること以外の意味を成さないもの。 わたし、あなたと付き合っている間は結局一度も想いを伝えていなかったわね。好き、大好き、愛してるの。 本当に自分を好きなのか信じられなかったのは、本当はあなたのほうだったね。わたし、今思えばあなたのこと、盲目的に信じていたわ。あなたはわたしが大好きなんだって。信じられなくても、あなたは悪くないのよ。わたしがそういう態度を取っていたのだもの。 もしあなたの中にわたしへの愛が、耳掻き一杯程度でものこっているのなら、キスをしてはくれないかしら。触れるだけで構わないから。 わたしね、やはりもう二度と恋なんてしないことにしたの。これ、べつにあなたを引きとめようとしてるわけじゃないのよ。今回のことでわかったのだけど、わたし、やっぱりもうだめね。結局、わたしはあなたに何をできたでしょう。 わたし、一生ひとりでいるわ。きっとそれが一番気楽なの。だれかといることになんて、慣れちゃ駄目よ。孤独がつらくなるもの。だから今だって……ねえ。 言い訳なんかするつもりはないわ。だって、悪いのはわたし。あなたをひどく傷つけた。 わたし、もう弱音はあまり吐かないことにするわ。だって、あなたをこれほどまでに何度も傷つけておきながら、自分がかなしい顔をするなんて卑怯でしょう。そう思うの。 これだけは覚えていて。信じなくていい。「わたしはあなたを愛しています」。 ねえ、ひとつだけ。ひとつだけ判らないことがあるの。 結局、一番悪いのは誰なのかしら。あなたを除くおとこたちという生き物がもっとわたしに優しければ、わたしはここまで歪まなかったはずだわ。もちろん、こうなっていなければあなたは私を愛しはしなかったのかもしれないけれど。 それでも、判らないの。本当は恨みたいのよ。わたしに男を嫌いにさせたあのひとたちを。 だけど、ちゃんと知っているの。悪いのは、わたし。 |
悪気はなかったの、なんて、 言えない。 |