R62、それがわたしの名前だ。
「三時から砲撃、七時から銃弾八発、着弾時間順に0.392、0,390、0.390、0.385、0.394、0.393、0.398、0.402、一時二十一度14.258キロ先二機、機種判別不能」
 ずらずらと高速で信号だけをK49号はわたしの頭に残す。形勢はびっくりしちゃうほどこちらが劣勢だ。味方からの通信は先刻途切れた。通信先はずっと後方なのだから、流石にそこまでは落ちていないだろう。見限られたのだ、わたしたちは。わたしたちは国の最高傑作だけれど、設計図は研究室に残っている。壊れたのなら、また新しく作ればいいだけ。わたしの代わりを作ることは、いとも簡単だ。
「R! 無理だ、退け!」
 K49号がなにやら頭の中でわめいている。が、聞こえない。わたしは聞く耳持たない。いや、聞くスピーカー持たない。第一退くって、どこに。通信も途切れて、きみは何の絶望も抱かないのか、K。いや、抱こうはずもない。彼はただのわたしの頭脳コンピューターなのだから。ただ戦況を解し分析し、わたしに的確な指示を送るだけの機械だ。そしてそれを受け、判断した上でその通りに動くのが、わたし。なんと効率的だろう。行動が偏ることもない。
 カチリと、わたしの頭の中でなにか閃く音がした。同時に身体が拘束されたように動かなくなる。「K、何をした!」無理やり通信を繋ごうとしているのがわかる。カチカチと頭の中でスイッチの激しい切り替えや点滅音が聞こえる。「馬鹿め、通信が繋がったところで死ぬまで戦えと言われるだけだ」「壊れる、の間違いだろ」「はは、違いない」
 諦めたように再びわたしの身体は自由になる。戦うしかないのだ、この国から戦争がなくなるまで。そして、戦争がなくなればわたしはスクラップになる。存在意義のためにスクラップ目指して戦う、なんだそれ。「なあ、R」「なに」ちかちかと、Kの信号は心なしか震えている気がする。怯えたように。
「ぼくたち、捨てられたのか」
 頭はよくても単純な彼を傷つけるのも忍びなくて、わたしはただ黙って戦いに専念することにした。銃撃はやまない。



きみは目に止めぬあの赤色の眩しさよ


(07/07/03)