睡眠姫と卑猥王子

「ふいー、いいお風呂でしたー。瑛誠君今からいいことしませんかー、ってなに寝てるんだよう」「え、マジで寝てるのマジで。有り得ない。まだ十二時前なんすけど」「え、ていうか何私独り言言ってんの超きもい」「おーい瑛誠。起きろ、起きないと胸揉んで大きくするぞ、言われてるんだろバイト先で貧乳は希少価値だって」「起きろ瑛誠。マジですんぞ、マジで本番すんぞ」「…全く瑛誠ってば寝顔とか超可愛いんですけど何考えてんのこれ。襲って欲しいのねえ襲って欲しいの」「おーい…て、あれ。お兄ちゃんだ」『よういちご、お前今何してた』「風呂上りっすー」『了解。今からお前のこと迎えに行くから』「え、なんで」『ふっふっふ。十二時過ぎたら何日かな、いちご君』「…五月二十七日。ってああ、わかった。どこ行くの」『カラオケ。東京事変も林檎も全部歌うぞ』「まじで、やった。私お兄ちゃんとこの世の限り歌いたかったんだよねー、瑛誠ボーカルのくせに外すんだもん」『お、良いねえ。あれ、瑛誠君は今一緒』「うん、寝てる」『どうする、連れてく』「うん、今叩き起こすから。ライブまで近いくせにまだ歌詞完璧じゃないのこいつ。本当情けないボーカルなんすわ」『なに歌うの、今度の』「幸福論」『うええ、まじかよ』「そ。だから殺してでも連れてくね、いつでも迎えに来てくれていいよ」『あい了解』

「瑛誠、おーきーろっ」「いたっ、痛いよ緒香あ」「いつまで寝てるの、早く支度してくれない」「え、何の」「出かけるの。お兄ちゃんと一緒に。勿論瑛誠も一緒だよ」「どこ、に」「カラオケ」「え、何で」「今日、五月二十七日でしょ」「それがどうかしたの」「ばかっ。椎名林檎十周年だろー」「…ああ、それで緒香のお兄さんか」「ついでに幸福論見ないで歌えるまで練習だからね。そんでお兄ちゃんに指導でもしてもらってよ」「あはは、それは助かるなあ。緒香のお兄さん椎名林檎完璧だもんねえ」「そりゃ伊達に十年もファンやってないからね」「…歴史を感じるなあ」